そんな“なんとなく”の作用を科学的に証明するための実験が1日、小布施町のおぶせミュージアム・中島千波館で行われた。町内の成人男女や中学生が参加。作品の鑑賞前後に表れる血圧や脈拍、心理状態の変化を調べ、リラックス効果と思われる結果を確認した。
健康促進や疾病予防に活用する博物館浴を提唱し、研究を進める九州産業大学地域共創学部の緒方泉特任教授の案内で実施。中島千波館で作品を2回鑑賞し、その前後に生理検査(血圧、脈拍)と心理測定(怒り、混乱、疲労、緊張、活気・活力など)を行った。
成人対象の実験には、町の保健福祉委員会など20代から70代の男女16人が参加。1回目は1人で黙々と鑑賞。2回目は同じ展示室で参加者同士、作品の感想などを話しながら和やかに鑑賞した。
2回目の鑑賞中、ある参加者は「屏風(びょうぶ)に細かい桜の花が無数に描かれていて、きれい」とうっとり。別の参加者は「大きく描かれた朝顔の作品が好き。心がゆったりする」と話していた。
緒方特任教授は実験後、博物館浴の可能性について話した。海外の先進事例では、カナダの医師会が健康回復を促進する治療の一環で、処方箋に「美術館へ行く」と書く取り組みを始めている―と紹介。英国ロンドン大学の研究グループの調査では、文化芸術の鑑賞機会が多い地域住民の死亡率が低いことが分かったという。
また、国内で不登校やひきこもりなど、社会課題が深刻化している現状に触れ、「若者から高齢者のQOL(生活や生命の質)を上げ、ウェルビーイングを支える場の一つとして、博物館や美術館が役割を担えるのではないか。さらにデータを集め、博物館浴の社会実装化を目指したい」とした。
国内には5,700を超える博物館や美術館があるが、国民が利用する回数は年に1~2回。緒方特任教授は2020年9月から実験を開始。これまでに83館、1,200人余のデータを蓄積し、鑑賞後は常に気分が良くなる状態を示す値を得ているという。小布施での実験は県内初。
今回の実験でも成人・中学生ともに、生理検査、心理検査の数値の変化から、リラックス効果が得られたと考察できた。
町教育委員会は「地域の皆さんが美術館・博物館に足を運ぶきっっかけになれば。緒方先生にご指導いただきながら、町内の施設全体で取り組んでいきたい」としている。